回想性想起と親近性想起

 多くの研究者は以前から再認記憶には少なくとも2つ以上の異なる神経基盤があると考えてきた。

1) 回想性想起
 回想性は意識を伴い過去のエピソードを想起したりその時点にあったことを追体験するものである。

2) 親近性想起
 親近性は、いつそのエピソードがあったかを思い起こすことはできないが見覚えがある、それを見たのは初めてではない、ということを基にした判断で、意味記憶に近い。

 Yonelinasは、信号検出理論を用いて、海馬に選択的に障害のある患者では、回想性の想起に障害があり、海馬周辺領域に障害のある患者では、親近性が障害されることを示した。

 AggletonとBrownは側頭葉内側部と間脳の間に機能の異なる2つの日常記憶システム経路があるという仮説を提唱している。

 第1の周回経路は、

海馬->海馬至脚->脳弓->乳頭体->視床前核<->帯状回後部<->海馬周辺皮質<->海馬

脳弓を介してエピソード記憶、空間記憶、または再認記憶のうちの回想性想起に関与しているとする。

 第2の周回経路は海馬体や脳弓を含まずに

嗅周囲皮質->下視床脚->視床背内側核<->帯状回<->嗅周囲皮質

主に視覚認識や再認記憶のうち親近性想起に関与する。

 第1の経路のどこかの破壊で遅延非場所合わせ課題、T迷路、放射状迷路、水迷路では基本的に空間学習障害が見られ、オブジェクト再認課題と遅延非見本合わせ課題は正常であた。

 第2の経路での破壊では、全く逆の結果となった。すなわち海馬と嗅周囲皮質の間に二重乖離を確認した。

詳しくは、
認識と行動の脳科学 (シリーズ脳科学)


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エピソード記憶と意味記憶

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tag : 回想性想起 エピソード記憶 海馬 親近性想起 意味記憶

エピソード記憶と意味記憶

 エピソード記憶意味記憶はそれぞれ異なる神経基盤の持つかという問題には、タルビングが以下の2つの可能性を提示している。

1) 記憶情報は大脳一次感覚野から順次入力し、まず意味記憶として形成されて最終的に海馬エピソード記憶としてまとめられるというもので、意味記憶の形成基盤は情報が海馬に到達する以前にある(自説SPIモデル)
2) 意味記憶は多くのエピソードから文脈要素が抜けて意味だけ抽出されて形成されるという可能性で、神経基盤としてはエピソード記憶と同様に意味記憶の符号化は海馬に依存する

 スクワイアは2)の可能性を強く支持したが、エピソード記憶が障害されているにも関わらず、意味記憶の獲得が正常である患者の報告や、ヒトの幼少時の意味記憶が海馬の完成する以前に獲得されることなどから、最近では、側頭葉内側部は機能的解剖学的に細分化されているという見解が有力になってきている。

詳しくは、
認識と行動の脳科学 (シリーズ脳科学)


関連記事:
海馬の宣言的記憶仮説

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tag : 海馬 タルビング エピソード記憶 意味記憶

海馬の宣言的記憶仮説

 スクワイアの「宣言的記憶仮説」によると海馬の主要機能は、

1) 長期記憶の形成
2) 事実(意味記憶)や出来事(エピソード記憶)に関する宣言的記憶を司る
3) 機能不可分な側頭葉内側部システムの一部として記憶の形成とその初期貯蔵に働く
4) さらに記憶を徐々に大脳皮質に転送固定させ古い記憶の想起にはもはや必要とされない

とされる。

 しかし最近ではこの仮説の詳細に疑問を呈するデータが多い。サルの海馬を破壊しても遅延非見本合わせ課題で障害されなかったとの報告や、有名なH.M.は以前の報告とは異なり意味記憶を十分獲得できるという報告が最近なされ、エピソード記憶が障害されているにもかかわらず意味記憶の獲得は正常だったという思春期健忘例の報告がある。

 つまり「意味記憶に関しては、海馬は関わっておらず、意味記憶エピソード記憶は機能不可分ではない」のではないかという疑問である。

詳しくは、
認識と行動の脳科学 (シリーズ脳科学)


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tag : 海馬 スクワイア 意味記憶 エピソード記憶 宣言的記憶

歯状回の顆粒細胞

 新生ニューロンと学習で「ラットの海馬(とくに歯状回)では毎日5000~1万個が新生している」と書いたが、池谷氏の「記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)」によると、海馬の中で増殖する能力を持っている神経細胞は歯状回の顆粒細胞だけで、増殖するだけでなく、死んでいくスピードも速く、3,4ヶ月もあれば全部の顆粒細胞が入れ替わるそうである。

関連記事:
新生ニューロンと学習

海馬の作業記憶仮説

 海馬損傷後のラットに、放射状迷路で以下の2つの課題の訓練をする。

1) 場所課題
・迷路外の様々な情報の位置関係を理解して、認知的な地図を作成し、それ利用する。

2) 手がかり課題
・迷路内の特定の目印(床に敷かれたテープなど)を標識として利用する。

 結果、以下のようになった。

1) 参照記憶誤反応(決して餌が置かれたことがない走路への進入)
・場所課題でのみ誤反応が多かった(学習できない)。

2) 作業記憶誤反応(餌の置かれていた走路への2度目の進入、ちょっと前の記憶が保持できない)
・場所課題、手がかり課題ともに誤反応が多かった(学習できない)。

 このような結果から、オールトンらは、海馬作業記憶仮説を提唱したが、認知地図仮説と排他的なものではない。

詳しくは、
比較海馬学



関連記事:
海馬の認知地図仮説

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tag : 海馬 作業記憶仮説

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sai

Author:sai
宮城県出身。寅年生まれ。おうし座。B型。左利き。赤緑色盲。たそがれのプログラマー。

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