誤った記憶

理化学研究所の利根川進研究チームは、マウスを使い記憶の内容を光で操作することにより、過誤記憶が形成されることを初めて実証した。

記憶の曖昧さに光をあてる
-誤りの記憶を形成できることを、光と遺伝子操作を使って証明-


研究チームはこれまでに、マウス脳を用いて、記憶を保存する特定の脳細胞群を光感受性タンパク質で標識し、その細胞群に光をあてることで、脳に保存されている特定の記憶を思い出させることに成功しています。さらに研究チームは、最先端の光遺伝学(オプトジェネテイクス)[2]技術を用い「過誤記憶がどのように形成されるのか」という謎の解明に挑戦しました。

実験では、まず、安全な環境であるA箱の環境記憶痕跡(エングラム)をマウスの海馬[3]に形成させ、光感受性タンパク質で標識しました。次に、このマウスを異なった環境のB箱に入れ、A箱の環境記憶を思い出させるためにこの細胞群に光(ブルーライト)をあてると同時に、マウスが嫌がって恐怖反応(すくみ)を示す弱い電気刺激を足に与えました。すると、電気刺激とA箱のエングラムが結びついて、このマウスはその後安全なA箱に入れても恐怖反応(すくみ)を示しました。さらに、A箱のエングラムに対応した細胞群を光刺激しただけで、恐怖反応(すくみ)が生じることを発見しました。これにより、安全なA箱のエングラムは、恐怖と一緒になった別のエングラムへと再構成されたことが明らかになりました。



言い換えると以下のとおり。

1) A箱の環境記憶痕跡をマウスの海馬に形成させ、光感受性タンパク質で標識

2) このマウスをB箱に入れ、A箱の環境記憶の細胞群に光をあてると同時に、弱い電気刺激を足に与える

3) A箱に入れても恐怖反応(すくみ)を示した

4) A箱のエングラムに対応した細胞群を光刺激しただけで、恐怖反応が生じた

その後B箱に入れた場合、恐怖反応は示すのだろうか?

利根川先生はこれまでも記憶に関する数々の研究実績を残している(下記参照)。
海馬CA3と記憶の想起
海馬CA1と記憶の獲得

光遺伝学(オプトジェネテイクス)に関しては下記参照。
「人工記憶」とオプトジェネティクス

tag : 過誤記憶 海馬 光遺伝学 オプトジェネテイクス

将棋盤の中の三角形

NHKのサイエンスZEROという番組で「世界最強!?人間を超えた人工知能」というのをやっていた。

今年4月、史上初めてコンピューターが将棋の世界で現役プロを打ち負かし、関係者や将棋ファンを騒然とさせた。勝者は東京大学のチームが開発した人工知能プログラム。優勢と見られていたプロ棋士が、コンピューターの繰り出した「人間には想像も付かない一手」をきっかけに、攻める隙もなく完敗するという衝撃の展開となった。驚異の人工知能の内部を探ると、そこには意外にも人間の脳の秘密を解き明かすカギが隠されていた!


人間には想像も付かない一手」は、今後は「新定石」と呼ばれるであろうと他のプロ棋士が言っていた。定石による先入観で誰もが見落としていたのであろう。
人間の脳の秘密を解き明かすカギ」に関しては何も言っていない。
プロ棋士を負かしたコンピュータプログラムは「GPS将棋」でベースアルゴリズムは、ボナンザである。
ボナンザはそれまで実時間的に無理と言われていた全数探索で、見事初挑戦でコンピュータ将棋の大会で優勝した(と下記の本に書いてあったと思う)。



この番組では全数探索が勝利の要因であったということにはふれていなかった。
それとは別に、過去の棋譜から3つの任意のコマの三角形を選んで統計し、そのパターンと現在の状況を比較して、もっとも近い形のものを選ぶ(という評価関数)ことが勝利の要因とゲストの松原仁先生が解説していた。
この三角形は、おそらく単なる思い付き(プログラマの直感)で、理論的根拠はないと思われる。
人間のプロ棋士はこんなことはやっていないだろうとも言っていた。しかしコンピュータは三角形から四角形、五角形などいろいろ試すことによりもっと強くなる可能性もあると。

やはり人工知能というよりも、人間が賢くなったと言う感じである。

関連記事:
何が賢くなったのか
コンピュータ囲碁・将棋

tag : 将棋 三角形 人工知能

人工知能とは

人工知能学会誌(2013年7月)に京都大学名誉教授の長尾眞先生が、レクチャーシリーズ「人工知能とは」[第4回]に寄稿された。
これからの人工知能は脳の働きを参照することによって新しい課題や方向性が見えてくるのではないか」という立場に立ち、批判を覚悟で自身に対する一問一答形式で書かれている。

以下その抜粋(Aの後の詳しい解説は省略)である。さらに私なりの回答をAn'として書いてみた。

Q1 人工知能とは

A1 人間の頭脳活動を極限までシミュレートするシステムである。


A1' 結果の予測はほぼ不可能なプログラムであるが、その結果は一見合理的と思える出力を出すもの。さらに結果および周囲の反応から、自己修正ができるプログラム。


Q2 認識とは

A2 類似性を検出する脳内機能であり、受け取った情報を記憶構造の中での整合的な場所に位置づけることである。


A2' (感覚)入力のデータと記憶(生得的ものを含めて)を照合し、あるパターンに対して反応(ニューロンの持続的励起)すること。


Q3 同一性、類似性、抽象化とは

A3 あることがらを記憶しているニューロンネットワーク群が同一あるいは類似の情報によって活性レベルが上がることである。


A3' 対象と記憶を、パターンコンプリーションおよびパターンセパレーションにより、同一、類似または別のものであることを認識する。抽象化とは外界には存在しない(花という花はない)ものを記号化して操作するためのもの。


Q4 知識とは

A4 類似の情報が近くに局在するように記憶され、これら全体が抽象化された状態のもとにまとめられたもの、また関係をもつ知識がつながっている構造である。


A4' 多くのデータを格納しても知識とは呼べない。格納(記憶)したデータを必要に応じて取り出すことができてはじめて知識と呼べる。その際文脈に応じて不足情報を補いまたは推論し、取り出すこともできなければならない。


Q5 考えるとは

A5 ある情報からある結果を推論することである。


A5' 意識および無意識の流れ。志向性を持ったものから単なる連想もある。


Q6 判断とは

A6 外界から得た情報を認識し、推論し、行動に移していく段階に進むことである。


A6' 結果を予測し、なんらかの行動を決めること。


Q7 学習とは

A7 外界から得られる情報を認識知識化し知識を増やすこと、またその認識過程や、判断を経て行われる行動過程をより確実なものにするプロセスである。


A7' 意識的な(無意識の場合もある)記憶保持の過程。


Q8 行動とは

A8 認識した結果から推論過程を経て目的が設定され、それを実現するために小脳を通じて体に指令を送ることである。


A8' 効果器(手足口など体のすべて)を動かすこと。基本的に自己保存や報酬(快感)に向けた動きをする。


Q9 発見、創造とは

A9 推論プロセスにおいて、それまで気の付かなかった結果を得ることである。


A9' 獲得済みのプリミティブな知識や行動から組み立てられた、新しい一連の組み合わせのことで、そのうち有用と周囲に認められたものが発見や創造と呼ばれる。


Q10 知識を持っているとは

A10 Q2からQ9までに述べた機能全体が整合的に働く状態である。


A10' 知識を永続的に保持している状態。ただし新知識によってダイナミックに更新または破棄される場合もある。


Q11 脳幹の働きとは

A11 これまで述べてきた機能(Q2~Q10)を含め、脳の各部位が行う機能を感情その他の因子によって制御することである。


A11' 生命維持に必須の中枢神経系。


Q12 感情とは

A12 脳幹(特に大脳辺縁系)からの指令で出る化学物質の種類と程度によって大脳が制御され、ある種の状態になること、これによってある感情に対応する思考が生じる。


A12' 無意識の生得的情動反応が、意識的な反応と連合したもの。


Q13 意識とは

A13 複数のレベルがあるが、最も興味のあるのは自己意識であり、自分の大脳が働いているということを自分の大脳が認識しているリカーシブな状態である。


A13' 意識と無意識に分けた場合の意識は、自身でそれをはっきりと自覚できる感覚や認識のこと。またその連続。すべての感覚や認識を自覚できてしまうと脳(特に前頭前野)は処理しきれないので、重要なイベントのみ自覚できる。その際ニューロンは一定時間以上(数百ミリ)の励起を必要とする。


Q14 コンピュータソフトウェアになく生体に特有のものは

A14 曖昧さ、揺らぎ、意志である。


A14' 自己保存、種の保存の志向性。どちらも増えることを志向している。


Q15 とは

A15 他人から見たときの大脳の活動の時間的経過を包括的に指す文学的表現である。


A15' 意識無意識の総体。


Q16 ロボットは人を理解できるか

A16 人とのインタラクションにおいて、人が満足する状態をつくり出すことができれば、ロボットが理解してくれていると思う。


A16’人と同じレベルで理解することはできない。イヌやネコが人を理解するように、ロボットはロボットなりの理解はできる可能性はある。


Q17 コンピュータにとってなぜ自然言語は難しいか

A17 自然言語はさまざまな曖昧さが含まれていてコンピュータが適切な判断をすることが難しい。


A17' 自然言語の理解には、記号接地問題を解決する必要がある。その記号接地はマルチモーダルな記憶となる。記号(シンボル)だけの世界では自然言語を理解できない。


Q18 コンピュータは言語の文法や意味を学習できるか

A18 その目的のプログラムをつくり、膨大な言語データを与えれば不可能ではないだろう。


A18' 発話は行動であり、文法はその行動の系列学習によって獲得される。言語の意味は、記号接地問題が解決されなければ真の学習はできない。この2つの学習メカニズムはどちらも記憶のメカニズムを基盤に成り立っている。記憶のメカニズムが作れれば、これらの問題の解決する可能性がある。

tag : 人工知能 自然言語 意識 認識 知識 学習

脳科学の教科書

「神経編に」続き「こころ編」の「脳科学の教科書」が出版された。



目次は以下のとおり。

第1章 ヒトの脳の構造と機能
 (脳のはたらきとしての「こころ」臓器としての脳 ほか)
第2章 脳を見る
 (脳に対する関心―脳画像法の原理 ほか)
第3章 言語思考のしくみ
 (言語と脳人間の言語とその進化 ほか)
第4章 情動と感情
 (情と理基本的な一次感情 ほか)
第5章 脳の病気
 (脳の病気の分類神経疾患の脳科学 ほか)

印象としては、おおまかな説明で脳科学初心者でも読めるのではないかと思う。
「こころ」にどこまで迫れたかというと、脳科学自体がまだまだ発展途上なので、だれもが納得できるという内容ではない。

「第3章 言語思考のしくみ」P77の図3.3「2つの言語野の機能的関係と情報の流れ」は、本文の7つの失語(ブローカー、ウェルニッケ、伝導、皮質下性運動、皮質下性感覚、超皮質性運動、超皮質性感覚)の説明とあわせて、非常に分かり易かった。

言語については下記記事も参照されたい。

言葉と脳と心 失語症とは何か

「第4章 情動と感情」では、物理的環境世界の中での「一次感情」、人間の精神世界の中にのみ抽象的に存在する抽象的世界の中での「社会的な二次感情」と分け、分かり易い説明がされている。

情動と感情については下記記事も参照されたい。

自己を組み立てる7つの原理
情動の本性をめぐる百年来の議論

感覚や運動、記憶などの基本的な脳の働きについては、神経編に詳しい説明がある。



第1章 神経系の構造と構成細胞
 (神経系の構造神経系の構成細胞)
第2章 脳の進化と発達
 (脳の進化脳の発達)
第3章 感覚のしくみ
 (感覚とは感覚の伝導路 ほか)
第4章 運動のしくみ
 (動物と運動運動のコントロール ほか)
第5章 記憶と可塑性
 (記憶の分類記憶生成のしくみとシナプスの可塑性 ほか)


tag : 脳科学 教科書 こころ 言語 思考 情動 感情

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宮城県出身。寅年生まれ。おうし座。B型。左利き。赤緑色盲。たそがれのプログラマー。

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