紡錘状回(顔領域)への2つの入力経路

 網膜には、形や色に対して反応する錐体細胞と、明暗に反応する桿体細胞があるが、中心視野には錐体細胞が多い。中心視野の情報は側頭葉の底部に送られる。

 顔画像を見ているときに、側頭葉底部の一部分が強く活動し、そこは「紡錘状回」と呼ばれる顔領域が存在する。そこに障害があると「相貌失認」(声を聞けば誰かわかるが、顔を見ても認識できない)という症状が出る。

 顔を想像した場合にも紡錘状回は同じように活動するが、注意に関係する前頭葉や、記憶に関係する海馬からも信号が送られくる。また線画による顔の絵やニコちゃんマークを見ても、この顔領域は活動する。その内側にある海馬傍回には、風景や建物を見ているときに活動する建物領域が存在する。

 顔を見たときに特に強く反応する脳領域は、発達とともに次第に明瞭になってくる。五、六歳の子供が顔の画像を見ると、側頭葉の底部に活動が見られるものの、ひとつのかたまった領域としての活動ははっきりしない。10歳を過ぎるころになると、顔領域としてのひとまとまりの部分に脳活動がみられる。

 多少の個人差はあれ、概ね一致した脳の特定の部位に見られるようになってくることは、もともとその部位の神経細胞が顔の情報処理に適した性質を持っていることを意味している。例えば表情の分析を行うために、感情の処理に関連した脳領域と線維連絡を持った神経細胞集団が顔情報処理に適しているのであろう。人によって脳のぜんぜん違った場所に顔領域や建物領域が存在することはない。

 文字を見ているときに強く活動する脳領域は、左大脳半球の側頭葉と後頭葉の境界部分に存在する。しかし単なる文字の形態認知ではなく、この文字がなんらかの言語的意味処理を必要とするシンボルであるという認識を持ってはじめて、この文字領域は活動する。文字を読むという新たな脳領域の出現というよりは、脳領域間の線維連絡の変化によって獲得されたと言ってよいかもしれない。

 顔領域の活動は顔の外見だけでなく、むしろその被験者がその顔をどのように認識するか、すなわち主観的な顔のアイデンティティーを反映している。この「もの」のカテゴリー特異的な脳活動が、その「もの」自体によって規定されているのではなく、その「もの」が何であるかを認識する主観によって左右されている。つまり外界からの情報を一次視覚野を経由して受け取る領域と、心の内面を表した情報を前頭葉海馬などから受け取る経路のふたつが、顔領域への入力として存在することを意味している。

 また文字が読めてその意味を理解できるようになってはじめて、文字領域が活動するという事実から、脳の視覚領域は外界から得られた情報を受身で反応しているのではなく、過去に得られた視覚情報についての情報を統合した上で、現在の視覚情報を分析している。

 脳の視覚領域には、外界を自己の内部に表象する役割だけでなく、自分の経験や意図に基づいて外界を解釈する役割もある。

詳しくは、
心の脳科学―「わたし」は脳から生まれる (中公新書)



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ジャンル : 学問・文化・芸術

tag : 紡錘状回 顔領域 相貌失認 主観 前頭葉 海馬

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宮城県出身。寅年生まれ。おうし座。B型。左利き。赤緑色盲。たそがれのプログラマー。

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