イルカの理解能力は人間並み?
イルカが物とそれを表す文字、鳴き方をセットで記憶し、指し示したり鳴いたりできることを実験で確かめたと、村山司・東海大教授(動物心理学)らの研究チームが明らかにした。人間以外でこうした能力が確認されたのは初めてという。
(論文のURLはこちら)
https://www.nature.com/articles/s41598-017-09925-4
クロスモーダルな刺激透過性の成立が確認できたとのこと
刺激透過性とは、一般的に以下のように2つの訓練から4つの推論ができることをもって成立した、と以前の記事に書いた。
訓練1:AならばB
訓練2:BならばC
推論1:BならばA(対称性:訓練1に対する)
推論2:CならばB(対称性:訓練2に対する)
推論3:AならばC(推移性)
推論4:CならばA(等価性)
イルカの実験では、
訓練1:足ヒレ(A) ならば 「ピィ」(B)と鳴く
訓練2:足ヒレ(A) ならば 「丄」(C)を選ぶ
推論1:「丄」(C) 見せる 「ピィ」(B)と鳴く
CならばA(対称性)+AならばB(訓練) → CならばB(推移性?)
推論2:「ピィ」(B) 聞かせる 「丄」(C)を選ぶ
BならばA(対称性)+AならばC(訓練) → BならばC(推移性?)
なので訓練も推論も若干違う。
脳科学辞典によると「ヒト以外で等価関係を示したアシカとチンパンジー」とあり、「人間以外でこうした能力が確認されたのは初めて」ではないかもしれない。
しかし、先に述べた通り実験方法が若干違うので、こちらの方法の実験では人間以外では確認されていないのかもしれない。
ただし「イルカの理解能力は人間並み」は、表現がオーバーと思う。
日本人の脳に主語はいらない?
要約:
・日本語は、母音比重度も大きくて、主語省略度も大きい。これに対して、ポリネシア語以外の言語は、日本語より母音比重度も小さく、主語省略度も小さい。
・ポリネシア語は、日本語と同じように、母音比重度が大きくて、主語省略度も大きい。
・発話開始時には、最初に母音を聴覚野で内的に聴く。
・自他の分離は右脳の聴覚野の隣で行っている。
・日本人は母音を左脳で聴き、イギリス人は母音を右脳で聴く。
・日本人は、発話開始時には、母音を左脳の聴覚野で内的に聴き、隣の言語野が直ちに動き出す。かつ右脳の自他の分離を担う部分を刺激しないので、人称代名詞等を発生することがあまりない。
・イギリス人は、発話開始時には、母音を右脳の聴覚野で内的に聴き、左脳(反対側)の言語野に伝わるまでに時間がかかり、時間的空白が生じる。かつ右脳の自他の分離を担う部分を刺激するので、人称代名詞等を発生してしまう。
大胆な仮説で発表した勇気は賞賛に値するが、同意はできない。
文法自身にも意味があり、英語で動詞が先に来た場合は命令となるので、主語を省略することができないのではないか。
日本人が主語を省略するのは、補完可能な場合で、必要な場合は省略しない。他国に比べて主語の省略が多いのは、文法的特性(省略しても非文にならない)と慣習(補完能力の高さ、しかし誤解も)によるものと思われる。
遺伝子とシンボルグラウンディング
英ブリストル大学(University of Bristol)の疫学者らが率いる研究チームが発表した論文によると、「ROBO2」と呼ばれる遺伝子にある特定のDNA配列は、子どもが発話を始める初期段階で習得する単語数に関連しているという。
ROBO2は、言語発達や発音に用いられている可能性がある脳細胞の中の化学物質を誘導するタンパク質を制御している。
論文によると、ROBO2は、これまで失語症や言語関連の障害に関係するとみなされてきた第3染色体の領域に存在するという。また、ROBO2のタンパク質は、読むことや言葉の音を覚えることに関する問題に関連するとされてきたROBO遺伝子群の同類タンパク質と相互作用する。
幼児は通常、生後10~15か月くらいで単語の形成と発話を始める。英語圏の幼児は生後15~18か月で、使える単語数が50語ほどになる。生後18~30か月では約200語になり、単語を組み合わせたより複雑な文法構造の言葉の形成が始まる。ROBO2は、1つの単語で話す「単語会話」の初期発達段階に特異的に作用しているとみられている。
ROBO2の遺伝子機能が、隣接する他のDNA変異からどのような影響を受けるかや、学習行動にどのように関与している可能性があるかを解明するためには、さらなる研究を重ねる必要がある。また、他の単体または複数の遺伝子が言語の習得に関与しているかどうかを調べることも、今後の課題の一つだ。
今回の研究では、欧州系の幼児1万1000人近くについて、遺伝子の比較調査を行った他、1語会話から2語会話に至るまでの段階における学習の発達状況を観察した。
「人におけるシンボルグラウンディング」で、
「概念的制約」とは、人は概念についての「素朴理論」を持っており、これが「制約」となって、あり得ない可能性を最初から排除しているというものである。
最近の認知発達心理学のめざましい発展により、乳幼児がそれぞれの存在論的カテゴリー特徴づける「概念的制約」のすべてとまではいわなくても、骨格となる重要な部分の知識を教えられずして持っていることが明らかになってきた。
子どもは知識が全くゼロの状態からことばの学習に臨むわけではない、として概念的制約という仮説を上げたが、子どもが初めに覚えることばは、存在論的区分(動物、物質など)よりもずっと詳細に分割された(犬=ワンワン、車=ブーブーなど)概念である。
子どもがこのように詳細に分割された概念に対応づけるためには、概念的制約に加え、ことばがどのように概念に対応するかについての知識が制約として必要になる。
と紹介したが、これらの制約(事物全体バイアス、事物カテゴリーバイアス、形状類似バイアス、相互排他バイアス、コントラスト原理など)と、先の遺伝子は関連しているのかもしれない。
tag : シンボルグラウンディングROBO2
イヌにおけるシンボルグラウンディング
イヌに多少のことばを(単語)を教え込むことは可能だ。しかし、意外なことに、イヌがどれくらいの数の単語を習得可能かは、まじめに調べられたことがなかった。イヌが驚くほどの単語の習得能力をもつことが示されたのは、2004年になってのことである。
実験を行ったのは、マックス・ブランク進化人類学研究所(ドイツ)のユリアネ・カミンスキーらのグループである。相手はリコという名の10歳になるオスのボーダーコリーである。リコは、幼い時から飼い主が言うものをもってくるように訓練された。飼い主によれば、250語がわかるという。カミンスキーらは、これを厳密な実験条件下で調べてみることにした(おそらく彼らも、250語わかるという飼い主のことばを最初は疑っていた)。部屋に10個の異なる品目を並べ、リコをその部屋に待機させておき、隣の部屋から(つまりリコには飼い主が見えない状態で)飼い主が単語を読み上げた。10種類の品目を20セット(200語)用いてリコをテストしたところ、リコはほぼ正しい品目をもってくることができた(正解率92.5%)。これは驚異的な能力である。しかも読み上げる単語のなかにひとつだけ未知の単語を入れておいた場合には、その単語の品目をもってくることができた。つまり、聞いたことのない単語と知らない品目とを結びつけることができたのだ。
「ヒトの心はどう進化したのか」から
「しかも読み上げる単語のなかにひとつだけ未知の単語を入れておいた場合には、その単語の品目をもってくることができた。」とあるが、これは先の記事(「人におけるシンボルグラウンディング」)の「コントラスト原理」と同じである。
「コントラスト原理」を使っているということは、イヌは他のバイアス(事物全体バイアス、形状類似バイアスなど)も使ってことばを獲得しているのかもしれない。
tag : シンボルグラウンディングコントラスト原理
人におけるシンボルグラウンディング
今井むつみ著「ことばの学習のパラソックス」からその難しさを確認してみたい。
クワインの謎
未知の言語を話す現地人が、うさぎを指して「ガヴァガーイ」という発話をしたとき、それが「ウサギ」なのか「ウサギの色」なのか「ニンジンを食べているウサギ」なのか「切り離すことのできないウサギの体の一部」なのか、それを聞いた言語学者は確定することはできないと、哲学者のクワインはことばの指示対象を確定する際の論理的な難しさを指摘している。
子どもがことばを学習していく過程も同様の難しさがある。
外延と内包
「ことばの意味」には「外延」と「内包」の2つの重要な側面がある。
「外延」とは、指示対象の集まりで、狭義の「カテゴリー」と同義である。
「内包」とは、カテゴリーにどのような属性があり、それがお互いにどのような関係にあるのか、カテゴリーにとってどの程度の重要性があるのか、などについての知識であり、構造化された内的表象と考える。狭義の概念である。
ほとんどのことばは、ひとつの事例を限定して指示するものではなく、「カテゴリー」を指示するものである。未知のことばを聞いたとき、そのことばの指示対象をその状況化で正しく同定するのみならず、新たな事例に拡張できなければならない。しかしことばを拡張するためには、その基準となる「内包」の表象が必要なはずである。
ことばの指示対象となる事例をたったひとつ知っているだけで、子どもは内包を持ちえるのだろうか?あるいは外延を決定する基準である内包なしで、子どもは外延を決定できるのであろうか?
子どもがことばを学習する際、クワインの言語学者のように論理的可能性を吟味することはせず、即時マッピング(シンボルグラウンディング)を行う。それを可能にするメカニズムとして近年主流となっているのが「制約」という考え方である。
概念的制約と存在論的カテゴリー
「概念的制約」とは、人は概念についての「素朴理論」を持っており、これが「制約」となって、あり得ない可能性を最初から排除しているというものである。概念的制約は、「存在論的カテゴリー」を持つと仮定している。 存在論的カテゴリーの例を以下に示す。
すべての概念的存在
-物理的に実在する存在
--自然物
---生物
----動物
----植物
---非生物
----固いもの(ダイヤモンド)
----液体、形がないもの(水、砂)
--人工物
---個別性のあるもの(車、机)
---個別性のないもの(プラスチック、ヘアジェル)
-出来事
--意図的(けんか)
--非意図的
---自然におこる(地球の自転、台風)
---人工的に作りだされる(電気の回路)
-抽象的概念
--感情的(愛、恐怖)
--知的精神的(思考、記憶)
存在論的カテゴリーの実在性は以下の2つの基準により妥当化されるという。
(1) それぞれの存在論的カテゴリーに属する存在は他と区別される独自の制約によって行動や属性を規定される。
(2) どのような物理的操作も、ある存在論的カテゴリーに属する存在に変えることはできない。
最近の認知発達心理学のめざましい発展により、乳幼児がそれぞれの存在論的カテゴリー特徴づける「概念的制約」のすべてとまではいわなくても、骨格となる重要な部分の知識を教えられずして持っていることが明らかになってきた。
言語領域特有の制約
子どもは知識が全くゼロの状態からことばの学習に臨むわけではない、として概念的制約という仮説を上げたが、子どもが初めに覚えることばは、存在論的区分(動物、物質など)よりもずっと詳細に分割された(犬=ワンワン、車=ブーブーなど)概念である。
子どもがこのように詳細に分割された概念に対応づけるためには、概念的制約に加え、ことばがどのように概念に対応するかについての知識が制約として必要になる。
以下が制約理論の代表的なものである。
制約名 | 内容 |
事物全体バイアス | 子どもは未知の名詞が物体全体の名前であり、その部分や属性(色、素材、触感など)を指示することばではないと想定する。 |
事物カテゴリーバイアス | 子どもは未知の名詞が個人や個体に特有な固有名詞ではなく、カテゴリーの名前だと想定する。この場合のカテゴリーとは分類学的体系に従ったカテゴリーである。 |
形状類似バイアス | 知覚類似性、その中でも形状次元での類似性が未知の物体のラベルの外延を決定するもっとも重要な基準。 |
相互排他バイアス | 子どもは、ひとつの事物にはひとつしかラベルがないと想定する。名前を知っている物体と未知の物体があり、未知のことばを聞くと、未知の物体を指すと解釈する。 未知の事物が状況の中にない場合、既に知っているの名前と重複しない指示対象(事物の部分、色あるいは物質の名前など)を探す。 事物全体・カテゴリーバイアスと相補的な関係にあり、適用範囲が具体的な事物、物体に限られている。 |
コントラスト原理 | 子どもは、ことばには完全に意味が重複する同義語というものはないという信念を持っており、未知のことばの意味を推論する際に、概念の中でまだラベルづけされていない場所、心的語彙辞書のなかの空白な場所を探す。 具体的な事物に限らず、あらよる概念とことばの対応すけの際に適用される。 |
これらのバイアスによって、子どもはことばを効率的に獲得しているようである。
これらのバイアスの存在を確認する実験の詳細は、下記を参照されたい。
tag : クワイン外延内包概念的制約存在論的カテゴリー事物全体バイアス事物カテゴリーバイアス形状類似バイアス相互排他バイアス